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ニートとその親たち、「受験パパ」化する父親

2017年12月14日

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同級生たちの「受験パパ」

 

 

 

ちょうど昭和40年代、私が学習塾をやっていた頃の話です。

 

 

 

当時は塾の保護者会をやると、たいてい母親しか来ませんでした。

 

ところが、私の塾でも受験動向などのデータ分析を少し科学的やるようになって、出題傾向などの統計をグラフ化するようになると、お母さんたちにはなかなか理解してもらいにくい。

 

 

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これは私をふくめて塾業界の大きな反省点でもあるのですが、そこでお父さんを保護者会に呼ばなくてはいけない、という話になりました。

 

実際、お父さんは統計データなどを読む能力は高かったのです。

 

 

 

しかし当時、保護者会に参加する父親には二種類いました。

 

保護者会には一応出るけれど、基本的には塾にお任せタイプ。

 

それと、保護者会をきっかけに、受験ママよりずっと徹底した「受験パパ」になるタイプの二つです。

 

 

 

私の市立中学・高校の同級生も、最初は「絶対、二神の塾にはうちの子どもは通わせない」と断言していたにもかかわらず、だんだん、「女房が通わせたいというから頼む」という口実で、自分の子どもを小学五年生ぐらいから、私の塾に通わせるようになったのです。

 

 

 

当時、松山市では、私立の中学・高校一貫校はそこ一校しかありませんでした。

 

私は高校時代に退学してしまうのですが、その当時でさえ、東京大学に毎年30人は合格するような名門校でした。

 

 

 

そこの同級生たちが、自分の子どもたちを同じ私立中学に入れるために、私の塾に通わせはじめたのです。

 

かつて「子どもにはあまり勉強なんかさせずに、伸び伸びと育てたい」と語っていた同級生たちの子育てが変質した瞬間でした。

 

 

 

口では奥さんのせいにしていましたが、実際は自分たちの面子のためです。

 

 

 

私の出身地である、愛媛県松山市のような地方都市だと、学校のランクが歴然としていて、父親の世間体もあるから思わず力が入ります。

  

もう息子の受験の合否が、自分の病院や店の客足にまで影響するといわんばかりなのです。

 

 

 

一方、大都市圏なら、会社組織の中で学歴社会の苦味を身体で知っている分、お父さんも異常に熱が入り、子どもをどんどん追いつめてしまいます。

 

これは35歳で隠居人として千葉に引っ越してきて、千葉や東京などの関東圏の塾でも教えていた私の実感です。

 

 

受験競争は、会社の営業競争にも似ていて、受験パパは俄然、張り切ってしまうわけです。

 

 

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学歴が高いお父さんは、せめて自分と同じレベルの学歴を持たせたいと思い、一方、学歴の低いお父さんもお父さんで、自分以上の学歴を子どもに持たせたいと一生懸命になる。

 

どこか自分の会社員人生のリベンジ(復讐)めいてしまうのです。

 

 

 

しかし、お母さんより社会動向にくわしいとは言っても、しょせんはサラリーマン体験しかないから、受験パパも受験ママ並みに視野が狭い。

  

受験パパは、いつの間にか受験ママより真面目で一生懸命にがんばりすぎてしまうのです。

 

 

 

いま思えば、とりわけ昭和40年代前半が、松山にかぎらず、全国的に受験競争の影響で、子育てが変質してくる時期だったのではないでしょうか。

 

 

 

もちろん、当時、受験競争の末端を支えていた自分のことは、棚上げして書いています。

 

ただ、当事者だったからこそ、自分の同級生たちの子育てに対する姿勢の変化を身近で感じることもできたのです。

 

 

 

私自身、塾が儲かりすぎて金銭感覚が狂ったこと、同級生たちの子育ての変質に手を貸している自分の立場に耐え切れなくなったこと――

 

それで、35歳で隠居するとともに、知り合いのいない千葉まで引っ越してこざるをえなくなったような気が、いまではしています。

 

 

 

 

 

子育ての変質と受験競争



 

今度は私が感じた親たちの変化を、子どもの側から考えてみましょう。

 

 

 

それまでは「勉強もスポーツも伸び伸びやればいい」と言われていた子どもが、小学校五年生になった途端に、いきなり学習塾へ行かされます。スポーツも遊びも制限されるわけですから、当然面白くない。

 

 

 

しかも突然、一週間に三日、四日も塾に行かなければいけなくなり、その挙句は市立中学校の受験だといって、猛烈にがんばらなくてはいけなくなる。

 

 

 

私だったら「親にだまされた!」と考えて、猛烈に反抗するでしょう。

 

しかし、普通の小学校五年生の子どもにとっては、親はまだまだ絶対的な存在ですから、渋々ながら言うとおりにするしかありません。

 

 

 

たしかに、子どもに対する親の理屈はさまざまあります。

 

 

 

いい学校へ行ったほうが将来好きな仕事につけるとか、中学受験さえ終われば大学受験まで六年間は伸び伸び過ごせるから、と親は言うわけです。

 

 

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しかし現実は違いました。

 

私立中学に見事入学した私の同級生の子どもたちは、今度は中学校でのレベルの高い授業についていかせるため、あるいはいい成績をとらせるために、ふたたび私の塾に通わされるようになったのです。

 

 

 

こうして実に簡単に、大学受験まで終わりなき受験競争に突入していきました。

 

それは小学校五年生で私立中学校受検を決めた時点で、すでに予想できた展開でした。

 

 

 

しかも始末が悪いのは、親側はそれも子どもに将来伸び伸びと成長してもらうためだと、自分勝手な理屈で思い込み、子どもたちを誘導したことです。

 

 

 

自分の子どもに対する言動がいかに支離滅裂かという意識は、まったくありません。

 

これも子どものためだという真面目な愛情から発しているから、自分の言動を疑うことがない。

 

前にも書きました、親自身の「糊しろのなき生真面目さ」ゆえです。

 

 

 

以降は、大学入試でも同じです。

 

仮に医学部に進学すれば、今度は国家試験です。

 

もう就職するまで際限なく続きます。

 

 

 

では、どこで子どもを伸び伸びと育てるのかというと、大学を卒業する直前になって、

 

 

 

「おまえの好きな道を歩きなさい」

 

 

 

といきなり子どもに丸投げしたりするわけです。

 

 

 

これでは、子どもは呆然とするしかない。

 

それまで自分の好きなことや興味があることを我慢して、受験勉強を優先させられてきたのです。

 

それが就職目前になって、急に自分の好きなことをやりなさいと言われても、子どもは困ります。

 

 

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だけど親には、自分が理不尽なことを言っているという自覚がありません。

 

子どもの自主性を尊重した、模範的な親だと思い込んでいるのです。

 

 

 

その場その場においては、子どものことを考えて自分では真面目で一生懸命なつもりです。

 

だから、自分たちの滑稽さがわからないのです。

 

 

 

昭和40年代の私の同級生たちが見せた変化は、子育ての変質と受験競争が一体化する中で、今日まで連綿と繰り返されているように私には思えてなりません。

 

 

>>次回

  

 

「希望のニート」二神能基著 2005年6月2日刊行 より

 


 

 

このテキストは株式会社東洋経済新報社(以下「出版社」という)から刊行されている書籍「希望のニート」について、出版社から特別に許諾を得て公開しているものです。本書籍の全部または一部を出版社の許諾なく利用することは、法律により禁じられています。

 

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