前にも書きましたが、地元の名門私立中・高一貫校を卒業した同級生で、地元に戻らずに東京や大阪の大企業に就職した友人たちは、みんな、そこそこ出世しました。
平均年収が1000万円台で、大都市の郊外に一戸建てマイホームを持ち、二人ぐらいの子どもを育ててきました。経済は右肩上がりで終身雇用の時代でしたから、そういう人生が可能だったのです。
また彼らは、核家族主義を普及させた最初の世代でもあります。
彼らは、戦後の大家族に生まれ、絶対的な権限を持つ父親を頂点とした、家父長制度への幻滅を感じて育ちました。だから彼らは、親子が横並びのニュー・ファミリーをめざしたのです。
それはいま述べた母子による「友達親子」にもつながっていきます。
しかし、皮肉な現象が起きています。
団塊の世代をふくむ60歳代前半から50歳後半の世代が、いままさに家族内に引きこもりやニートの問題を抱えているのです。
あるいは、パラサイト・シングルの子どもたちと同居していたりするのです。
すなわち、引きこもりやニート、パラサイト・シングルを批判するのも、そういう若者を家族に抱え込んでいるのも、似た世代の親たちだったりするのです。
その一方で、人に迷惑をかけず、人生に目的を持ち、自立して生きてきたはずの父親たちの多くは、定年まで会社組織の中だけで生きてきました。
だから定年後、それぞれが核家族として暮らす地域に戻っても、行き場がない。
友だちもいません。
会社人間にとって、自宅はただ寝に帰るだけの場所でしかなかったから、当然の帰結です。
私の同級生たちを見回してみても、60歳を超えて続々と定年退職し、第二の人生に突入していますが、自分なりに生きがいを持って、楽しく生きているのは10人に1人くらいのものです。
定年になった男性たちは、みんな呆然としています。
私の同級生で、防衛大学校を卒業して自衛隊に入って、退官前は数千人の部下を持つ地位まで上りつめた男がいます。
彼は、全国の自衛隊駐屯地を転々とする人生でした。
そのせいで地域のネットワークなんて皆無です。
定年後は自衛隊の紹介で、保険会社の顧問をしているそうですが、週一回出勤するだけで暇を持て余していて、三日に一度は同級会のメーリングリストに何かしらのメールを書いて送っているらしいのです。
そういう行き場のない定年組が集まって、それまで年一回だった同級会が、いつの間にか毎月開催になってしまいました。
そんな同級会は気味が悪いので、私は一度も参加したことがありません。
どうせ話題は、地元での昔話か、社会への不平不満しかないわけです。
しかし考えてみたら、そんな彼らも会社組織の中ではヒエラルキーを利用し、上意下達で物事を動かしていたわけです。
ですから人間関係を築く力や、個人の社会力がなくても、そこそこやっていけるわけです。
社会力とは社会のルールを守り、人間関係を築き、主張すべきところは主張し、妥協すべきは妥協して、物事をすすめていく能力のことです。
ただ、企業内では部長が課長に、あるいは課長が係長に「これをやれ」と言っておけば、とりあえず誰かが動いてくれる。
会社組織とは実は個々の社員に社会力がなくても、そのヒエラルキーを活用して事足りてしまう世界なのです。
そういう組織の行動習性が長年しみついた人間が、定年後に地域社会に戻っても、まともな人間関係をゼロから築けるわけがありません。
地域社会では、昔の名刺は通用しませんし、昔の会社の話ばかりしすぎると、友だちの一人さえできないかもしれません。
つまり、皮肉なことに、定年退職したサラリーマンも、ニートの若者たちも、社会力のなさという点では案外、大差ないのかもしれないのです。
「希望のニート」二神能基著 2005年6月2日刊行 より
このテキストは株式会社東洋経済新報社(以下「出版社」という)から刊行されている書籍「希望のニート」について、出版社から特別に許諾を得て公開しているものです。本書籍の全部または一部を出版社の許諾なく利用することは、法律により禁じられています。
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認定NPO法人ニュースタート事務局理事。1943年生まれ、早稲田大学政治経済学部卒。1994年より「ニュースタート事務局」として活動開始。千葉県子どもと親のサポートセンター運営委員、文部科学省「若者の居場所づくり」企画会議委員などを歴任。現在も講演会やメディアへの出演を行う。
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