中高年引きこもりとは、40代~60代で引きこもっている人のことです。
8050問題が近年はよく言われますが、この年齢も中高年引きこもりに含まれます。
中高年引きこもりの原因は、若い人たちとは何か違いがあるのでしょうか?
中高年ならではの対策とは?
40代引きこもりへの対応がこれからのポイントになる理由について。
このコラムでは、そういった内容をお届けしていきます。
中高年に限らず、引きこもり全体の原因について知りたい場合は、こちらのコラムをご覧ください。
内閣府による15~39歳の引きこもり調査では、引きこもりになったきっかけは、
などが、似たような数字で並びます。(複数回答可)
どれかが特に多いということはない、というのが特徴です。
中高年である40~64歳の引きこもりのきっかけは、
が一番多く、3割を越えます。
退職の後は
などが続きます。(複数回答可)
退職や人間関係など、職場にまつわるものは下の世代に比べると多いのは確かです。
ですがこれが全体の半分を占めるといった項目は、1つもありません。
中高年引きこもり1人1人の状況やその原因は、下の世代と同じで多様です。
中高年だからと特筆すべきものはありません。
中高年引きこもりの問題がよく取り上げられるようになった理由は、その数の多さにあります。
8050問題。
この言葉が、世間にだいぶ浸透してきました。
80代の親御さんが50代の引きこもる我が子と生活している状況です。
2019年には、当事者が40代の2つの事件が起こりました。
「川崎市登戸通り魔事件」と「元農水事務次官長男殺害事件」です。
また同年には内閣府が、40~64歳の引きこもりが61.3万人いるとの調査結果を発表しました。
以前調査した15~39歳の54.1万人よりも多いことが、メディアでも話題になりました。
そして最近では、当事者が60代の事件も起きています。
40~60代の「中高年引きこもり」が、ここ数年で一気に問題視されるようになったのです。
中高年引きこもりがここまで増えた原因と思われるものは、2つあります。
原因の1つ目は、退職がきっかけの引きこもりが増えたことです。
20年前は、引きこもりは不登校がきっかけというイメージが強くありました。
今は働いた経験はあり、職場をやめて引きこもったというケースの方が多くなりました。
その結果、引きこもりが始まる年齢が上がりました。
仕事を数年でやめて引きこもった人は、まだ20代です。
ですがいくつも仕事を変わった末に、または長く同じ会社に勤めていたのに、ブランクの末に何とか働いたのに、結局退職し引きこもってしまうケースが多くあります。
すると必然的に、引きこもりが始まった年齢は高くなります。
中高年から引きこもり始めた人や、その手前から引きこもり始めたけれどすぐに中高年になってしまった人が今はたくさんいます。
中高年の引きこもりの数が、こうして増えていったのです。
中高年引きこもり人数が増加した原因の2つ目は、引きこもりの長期化です。
内閣府の調査結果では、中高年引きこもりの長期化は顕著でした。
半数近くが7年以上で、30年以上すら6.4%もいたのです。
社会人を経験してからの引きこもり、しかもそれが長く続くのであれば、中高年が増えるのは当然です。
行政による支援、例えば引きこもり支援センターなどは、ここ10年で一気に設置が進みました。
その以前から引きこもっている人は、引きこもり始めた頃に相談先もなかったという状況もあるでしょう。
この2つにより、中高年引きこもりが増えたのです。
中高年の引きこもりが問題視される理由は、いくつかあります。
1つ目は、経済的な問題です。
親御さんが定年となり、年金生活に入り、生活に余裕がなくなります。
自分たちの生活だけならまだしも、引きこもる我が子の生活も支えなければなりません。
自分たちが死んだら、収入がなくなってしまう
そう思い、生活をきりつめ、何とか貯金を残そうとする親御さんもいます。
ただし財産を残せたとしても、本人がその管理方法を分かっていなければ、どこかで破綻する可能性はあります。
親御さんが死んでも届け出ず、年金を受給し続けて、事件となったケースもあります。
これは唯一の収入源を失いたくない場合だけでなく、長く社会と断絶されていたため親の死をどう処理したらいいか分からず放置した場合や、唯一の話し相手を失ったことを受け止めきれずにいる場合などもあります。
次に、親御さんの健康面の問題です。
80代前後ともなると、親御さんにも様々な健康不安が生まれます。
外出できない我が子のために買い物に行き、食事や洗濯など身の回りのことをしていた親御さんの体が、だんだん動かなくなります。
すると具体的な生活の困りごとが生まれます。
何となくは感じていた「自分たちが死んだら」「この子が1人取り残されたら」という心配。
親御さん自身の病気などが見つかると、一気に現実味を帯びてきます。
ここでやっと初めて「何とかしなければ」と相談に行く場合もあります。
介護となると、家の中に第三者が入ることになります。
訪問したヘルパーさんにより、引きこもる息子の存在が周囲に分かる場合もあります。
さらに引きこもりがぎりぎりまで表面化しないことも問題です。
以前は「引きこもりは家庭の問題」と言われていました。
人様に相談するものではない
家に引きこもりがいると知られるのは恥ずかしい
という感覚がありました。
この風潮はだいぶ変わってきています。
ですが親御さんの年齢が上がるにつれて、以前の感覚を持ったままの方が増えます。
特に当事者が40代以上という親御さんには、まだこういった意識を持っている方が多くいます。
ですから我が子の問題を外に出さず家族で抱え込み、静かに我が子を見守ります。
そして経済的な問題や健康上の問題が出てくると、抱え込み切れなくなり、問題が表面化するのです。
その時には引きこもり以外に経済面など様々な問題が伴っていますから、解決も大変になります。
本人はおろか親御さんからのSOSもないため、民生委員の方などが引きこもりの情報をキャッチしても、そこから支援につなぐことが難しいケースも多くあります。
最後の問題が、中高年に対応してくれる支援がないということです。
引きこもりは不登校の延長線上、若者の問題とされ、支援対象を35歳までなど年齢制限のある支援が大半でした。
最近は中高年引きこもりの問題が言われるようになりましたので、年齢制限をなくす動きや、生活困窮者自立支援制度など年齢に関係なく使える支援も生まれました。
ですがまだ十分とは言えない上、使える支援のアナウンスも不十分です。
そのため、どの支援にもつながれない人がたくさんいます。
支援がない時代に相談して行く先がなく、もう一度支援を探す気になれない方もいるでしょう。
支援の手薄さが、この問題を大きくしています。
親御さんが経済的に支えきれなくなる。
親自身に病気や介護が必要になり、生活面も支障が出てくる。
親御さんはぎりぎりまで問題を抱え込み、いざ表面化した時は大変になっている。
なら支援をと思っても、使える支援が少ない、または情報が広まっていない。
これが中高年引きこもりを取り囲む問題たちです。
今から10年後を想像すると、中高年引きこもり支援で大きなポイントになるのは、今の40代への対応だろうと思います。
新たな中高年引きこもりを増やさないために、30代などの人たちの支援はもちろん大切です。
ですがこれはすでに様々な所が取り組んでいます。
そして中高年引きこもり支援ですが、親御さんの経済面や健康面の問題がすでに出ている人たちの対応を検討する方向にまずは進むでしょう。
ここは恐らく50代・60代が中心になると思います。
40代はまだ我が子の問題を抱え込める、親御さんがぎりぎり頑張れる世代です。
ですからここへの対応が遅れる可能性があります。
引きこもりが一番多い年齢層は、40代ではないかと推測します。
その理由としては、単純に人口が多い年齢層であることが挙げられます。
同時に氷河期世代でもありますので、就職に失敗するなどして引きこもりになった人たちも多いでしょう。
また引きこもりという言葉が一気に広まった約20年前は、20代が多くいました。
その人たちがそのまま長期化すると、ちょうど40代になっているはずです。
これまでの調査で、中高年の多さは指摘されても、40代が突出しているような結果は見かけません。
ですが実際は40代が多いような気がしてならないのです。
懸念材料は、内閣府の調査結果にもあります。
60代は引きこもって5年未満で、引きこもり始めた年齢も60代という人が大半です。
50代途中までは社会生活を送り、退職して引きこもった人という印象です。
一般的な就労支援などで引きこもりを脱する人も、比較的いるのではないでしょうか。
50代になると、長期化の傾向が出始めます。
引きこもり始めが20代という人が2~3割を占め、引きこもり年数25年以上が3割になります。
20代前半のほぼ社会経験がないうちに引きこもり、そのまま今まで来てしまったと思われる人が、2~3割を占めるのです。
それと同時に、引きこもり期間3年未満という、軽い引きこもりの人も3割ほどいます。
そして40代は、長期化の傾向がもっと高まります。
20代前半から引きこもり、そのまま15年以上が経過している、ほぼ社会経験がないであろう人は、3割を超えます。そしてそこに次ぐ、多少は社会経験を経た20代後半から10年以上引きこもるという人を含めると、ついに5割になるのです。
そして引きこもり3年未満の人が、1割もいないのです。
すなわち今の40代は、社会経験が全体的に少なく、他の年代よりも社会復帰への道のりが険しい可能性があります。
これまで10年も引きこもっているのであれば、そのまま更に10年過ごす人も多くいると思われます。
10年後には20年以上の引きこもりがどっと増えるかも知れません。
それと同時に40代は親御さんが引きこもり問題を外に出さない傾向がまだ強く、親御さんがまだ元気なため、問題が表面化しません。
10年後に、現在の50代よりも更に深刻な50代引きこもりが、一気に表面化するかも知れません。
現在40代の、人数が多く深刻と思われる引きこもりが、親御さんが元気を失う10年後にどうなるのでしょう。
本当の8050問題は、10年後にやって来る気がしてならないのです。
内閣府の調査は、全体から引きこもりの人の割合を出すことにかなり重点が置かれ、引きこもりの人の中身については人数が少ないため、これが確かかは分かりません。
今後調査が進むことを願います。
実態を明らかにするとともに、まだ相談にすら来ていないかも知れない40代の人たちへの対応を、今こそ考えるべきではないかと思っています。
中高年引きこもりの親御さんで、まだ相談したことがない。
そういう方は、その年齢に対応してくれるところを探し、早急に相談に行かれることをお勧めします。
私たちニュースタート事務局も、40代の支援は普通に行っています。
50代の支援経験も、少ないですがあります。(60代の支援経験はありません)
以前相談に行ったけれどいい対応をしてもらえなかった。
そういう方も、引きこもり支援がだんだん充実してきた今なら、また違う可能性があります。
相談に行っている、支援を受けているけれど、何年も状況が変わらない。
その場合は、相談先を変えることも検討する方がいいかも知れません。
多様な引きこもり全てに対応できるところは、ないと言わざるを得ないからです。
我が子に適した支援を探してください。
「家族の問題」として抱え込むことも、自分の体が動く限りは面倒を見ようと思うのも、もうやめてください。
引きこもりの支援は、何年もかかるものです。
年齢とともに親御さんの体力は下がり、頑張れなくなっていきます。
親御さんが体力・気力があるうちに始めなければ、途中で心が折れてしまうかも知れません。
特に40代引きこもりの方は、自立できる可能性がまだまだ残されています。
50代・60代と年齢が上がるにつれ、どうしても就労は厳しくなります。
当然のことですが、少しでも早く相談に行き、支援を受ける方がいいのです。
親御さんが問題を先送りせずに今動くこと。
それが、我が子の問題の解決につながり、我が子の可能性を広げることになるのです。
親御さんが抱え込むことをやめ、相談に行くこと、時には相談先や支援を変えること。
そういったお1人お1人の行動が、中高年引きこもりという社会問題を解決していくのだと思います。
参考資料(内閣府ホームページ):
https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/r01honpen/s0_2.html
ニュースタート事務局公式YouTubeチャンネルの、中高年引きこもり解説動画です。
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同じ引きこもり・ニート状態であっても、その状況はそのご家族によってみな違います。
ニュースタート事務局では、ニート・引きこもりの解決のために、あなたの息子さん・娘さんに最もよいと思われる方法を、豊富な経験からご提案いたします。
認定NPO法人ニュースタート事務局スタッフ。青山学院大学理工学部卒。担当はホームページや講演会などの広報業務。ブログやメルマガといった外部に発信する文章を書いている。また個別相談などの支援前の相談業務も担当し、年に100件の親御さんの来所相談を受ける。
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