女性引きこもりの原因は何なのか、男性との違いはあるのか。
このコラムでは、女性の引きこもりについてご説明します。
そして引きこもりは男性が多い、というイメージが世間一般にあります。
統計でも、女性の占める割合は20~30%です。
ですが「家事手伝い」や「専業主婦」が、女性引きこもりの隠れみのになっている可能性があります。
本当に「家事手伝い」「専業主婦」は引きこもりではないのか、支援は必要ではないのか。
具体的な事例を交えて説明していきます。
女性に限らない引きこもりの一般的な原因をお知りになりたい場合は、こちらのコラムもご覧ください。
女性の引きこもりの原因は何なのか、男性との違いはあるのか。
そこは今現在、あまり有効と言える統計がありません。
内閣府による15~39歳の引きこもり調査では、3,104人のうち49人が引きこもりとされ、より細かい質問がなされました。
うち男性は63.3%で31人、女性は36.7%で18人です。
40~64歳の調査では、更に女性の数が減ります。
男性が76.6%で36人、女性は32.4%で11人しかいません。
女性ならではの傾向を見るには、これでは人数が少なすぎるのです。
女性の引きこもりに関する調査は、「一般社団法人ひきこもりUX会議」によるものが一番充実しています。
女性向けの当事者会を開催している団体のため、女性当事者の声が集めやすいのです。
ですが公的で大がかりな統計は、まだないというのが実情です。
女性の数は少ないですが、内閣府の調査の中身を見てみましょう。
引きこもりの原因や期間などの質問は、「調査結果」では男女合わせた数で割合が出されています。
ですが「集計表」には男女それぞれの数も出ているため、必要な割合を算出することができます。
15~39歳の引きこもりの原因・きっかけは、このようになります。(複数回答可)
赤の棒グラフが女性、青の棒グラフが男性です。
続いて、40~64歳の方の引きこもりの原因・きっかけのグラフです。
前回の調査に比べ、項目がかなり増えています。
この2つを合わせて、全年齢の男女別引きこもりのきっかけを出します。
(項目の一部はこちらの判断で統合します)
これで男性67人、女性29人の統計となります。
「小中高の不登校」「人間関係」「就活・職場になじめない・退職など仕事に関わること」「病気」が多くを占めています。
女性は不登校の数値が高く、男性は退職や病気の数値が高い傾向はあります。
ただその差はどれも6%以内におさまっており、決定的な男女差とは言えないでしょう。
また15~39歳の調査では、40~64歳で3割を超えていた「退職」という項目がありません。
同時に「その他」の数字もだいぶ違っています。
15~39歳の「その他」の中には、退職がきっかけという方がかなりいるように思います。
項目を増やして再調査をした場合、「退職」の数字が大きく変わる可能性があります。
全年齢を合わせても調査人数は十分とは言えず、まだ変動する可能性も頭に入れておく必要はあります。
それでもこの数字では、特筆するほどの男女差は見当たりませんでした。
引きこもりの原因は、男女の差はあまりないという印象です。
では引きこもり期間はどうでしょう。
15~39歳では男女ともに、長期化の傾向がはっきりと出ています。
男女どちらも、引きこもり期間3年以上が7割以上を占め、約半分が5年以上です。
大きな傾向で見ると、男女の違いは少ないと言えるでしょう。
ただ40~64歳は、少し様子が違いました。
7年以上が男性約4割なのに対し、女性は約7割という高い数字を示しています。
特に40~44歳の女性は、人数はたった4人ではありますが、全員が引きこもり期間10年を越えているのです。
この調査人数では確証は持てませんが、女性の方がより長期化する可能性はあります。
特に40代女性の突出した数字は、気になるところです。
私たちの現場の体感としては、やはり引きこもりの原因は様々です。
学生時代のいじめや、職場でうまくいかなかった、ストレスから体調不良になったなど、相談では男性同様に多様な原因があります。
ただ相談時の状況は、女性の方が深刻です。
精神疾患や体調不良を訴える人、精神科や心療内科に通っている人の割合は、男性に比べると高めです。
家族間でふつうの会話が難しい、特に母親への暴言があるという人も多くいます。
女性の相談の方が、引きこもりが重症化している、解決が簡単ではない印象があります。
ただし女性の相談自体が少ないため、女性の方が重い引きこもりが多いのか、軽いケースは相談をしないなどの理由から重い相談ばかりになったのか、私たちにも判断がつきません。
また「男性より女性の方が、より人間関係へのストレスを抱えている」という印象もあります。
男性には、「自分が話すのが下手だから人間関係が苦手」といった、漠然とした苦手意識を持つ人が、ある程度います。
ですが女性の場合は、男性への明確な恐怖心がある人や、過去のいじめから女性の集団への強い苦手意識がある人など、より重いストレスを抱えている人が多いように思います。
引きこもりの状況について、男女の違いは何となく感じています。
ですが、やはり女性の相談数の少なさから、はっきりと言及することができません。
実際に接する中で部分部分は見えているのですが、女性の引きこもりの全体像が見えない、という感じです。
やはり公的な大がかりな調査が必要なのだと思います。
内閣府の調査や、私たち現場の体感、そして一般的なイメージに、共通しているものがあります。
それは、「引きこもりは男性の方が多い」ということです。
内閣府の調査でも、15~39歳の引きこもりのうち女性は約37%、40~64歳ではわずか約23%です。
私たちのところでも、女性は相談数の3割程度、実際に支援を行っている人では2割程度です。
本当に女性の引きこもりは、その程度しかいないのでしょうか?
見えていない女性の引きこもりが、実はたくさんいるのではないでしょうか?
内閣府の調査には、以下の人たちは省くとはっきり明記されています。
・「あなたの現在の就労・就学等の状況についてお答えください。」との問いに、「専業主婦・主夫」又は「家事手伝い」を選択した者
・「ふだんご自宅にいるときに、よくしていることすべてに○をつけてください。」との問いに、「家事をする」、「育児をする」又は「介護・看護をする」を選択した者
つまり、家事手伝いや専業主婦に〇をつけた人や、ふだん家事・育児・介護などをしている人は、引きこもりではないとされています。
内閣府が発表した115万人の引きこもりの数に、この人たちは含まれていません。
この「家事手伝い」と「専業主婦」が、引きこもりの隠れみののような言葉になっている可能性があります。
この言葉は女性に使われますので、女性の引きこもりが隠れていると考えられます。
引きこもりの定義は、これはという文章はありません。
内閣府と厚生労働省でも、少し言葉は違っています。
ですがだいたい以下のようなものになります。
「就学・就労などの社会的参加をせず、かつ家族以外との交流をほとんどしない状態が、6カ月以上続いている状態。
ただし他者と交わらない形での外出はしていてもよい。」
これを家事手伝いにあてはめてみます。
一般的に家事手伝いとは、家で炊事洗濯などを行っている、未婚の女性を指す言葉です。
家事だけでなく、家業を手伝っている場合もあります。
では専業主婦はどうでしょう。
家事手伝いとの違いは、既婚であることです。
就労や就学はしていませんが、家事や育児の主な担い手です。
「家事や育児という役割を担っている」ということ。
これが就学や就労と同等に捉えられ、引きこもりから外されるのでしょう。
ポイントは、家族以外の交流の有無に関係なく、役割があるだけで引きこもりから除外されることです。
ここで家事手伝いの一例を出します。
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Aさんは30歳で独身、実家で両親と暮らしています。
高校時代にいじめが原因で不登校となり、中退。
そこから社会参加は全くなく、バイトの経験もありません。
父親はまだ現役で働いています。
母親もパート勤務をしています。
母親が仕事でいないため、Aさんが夕食担当です。
ただし人が怖くて外出は全くできないため、買い物は母親がしています。
Aさんは家にある材料で料理をします。
中学時代には数人の友人がいましたが、卒業から数年で連絡も途絶えました。
それ以降は友人と呼べる人は全くできず、ずっと両親だけが話し相手です。
本人も将来への不安はあるのですが、とにかく他人への恐怖があるため、家から出ることも、宅急便を受け取ることすらできません。
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Aさんは、全く外出ができない状況です。
このような人でも、調査で家事手伝いを選択する、またはふだん家事をしていると言えば、引きこもりからは除外されてしまいます。
女性引きこもりの相談が少ない理由に、家事手伝いの存在は関係していると思われます。
一昔前は家事手伝いという肩書は珍しくなく、「花嫁修業中」のような捉えられ方もされていました。
結婚後は専業主婦になる人が多かったため、外で働かず引きこもりのような生活をしていても、「結婚すればいい」とされてあまり問題にもされませんでした。
その後女性の社会進出によって、女性も働くことが普通になりました。
更に結婚しない人や、たとえ結婚しても共働きで働き続ける人、女性が働いて男性が専業主夫となるなど、様々な生き方が認められてきています。
時代が変わっているのです。
そして何より、家事手伝いの人は親の収入で生活しています。
親がいなくなると、十分な遺産でもない限り、自分で生活を支えることになります。
将来のリスクは、男女で違いはありません。
ですがそういった認識が甘いまま、「家事手伝いだから」と考えて相談にも来ない当事者や親御さんは、実はかなりいるのではないかと思います。
引きこもりと呼んでも差し支えなく、病気などの重い問題を抱えたケースも、実は多く存在することでしょう。
次に、専業主婦の例です。
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Bさんは、母親に「遊びより勉強」と厳しく育てられました。
Bさんは不器用なタイプで、思うように成績も上がらず、母親には怒られてばかりでした。
小学校時代から友人と遊ぶこともあまりなく、人付き合いは今も苦手です。
それでも何とか大学を卒業、就職します。
職場でも失敗が多く、やはりよく怒られていました。
そんな時によくフォローしてくれた人と結婚し、退社して専業主婦となりました。
結婚後は、毎日家事をして、夫の帰りを待ちます。
外出は週に1~2回程度で、買い物もネット注文と配達がほとんどです。
夫が仕事に行っている間は、誰とも会話がありません。
家に1人でいると無性に寂しくなりますが、連絡するような友人はおらず、母親にはとても電話したくありません。
また仕事をすることも考えましたが、以前失敗ばかりした記憶から、そこにも踏み出せずにいます。
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Bさんは、夫以外との交流が全くありません。
孤独を感じてもいます。
それでも専業主婦ですから、引きこもりには数えられません。
専業主婦を引きこもりに含めるのかどうかは、判断が難しいところです。
親よりもずっと長く連れ添ってくれる夫がいて、生活の糧は得ているからです。
ですが自らを引きこもりではないかと思い、苦しんでいる人がいるのも確かです。
これは子どもが生まれ、育児が始まっても同じです。
うまくいかない子育てや、意志疎通が難しい赤ちゃんと向き合う生活、外に出るようになっても他の母親との関係など、自信を失い孤立しやすい況が続きます。
育児の支援で対応できるような人、就労相談で状況が変わる人のほか、うつなど重い症状を抱える人もいます。
専業主婦は引きこもりと同様に多様な支援が必要であり、中には引きこもり支援でしか対応できないような人もいるのです。
「就学や就労をしていれば引きこもりではない」ということは、さほど抵抗なく受け入れられると思います。
就学していれば当然、クラスメートなど家族以外との交流があります。
不登校からフリースクールで個別対応をしてもらっている人でも、先生と接することはあるはずです。
就労は外との交流が欠かせません。
自宅でリモート作業をしている場合も上司や雇い主との関係性が、フリーランスの場合でもお金を払ってくれる人との関係性があります。
ところが家事手伝いや専業主婦は、親や夫、子供など家族との交流しかなくても、やっていけます。
従事するのは家事など家の中のことですから、外との交流が全くなくても成り立ってしまうのです。
この外との交流の有無が、就学や就労と、家事手伝いや専業主婦との、大きな違いです。
これらを同等に扱い、全て支援を不要とすることには、やはり違和感があると言えるでしょう。
家事手伝いや専業主婦だからと、支援を利用できない、自らも支援を考えない人がいます。
そして女性と支援を隔てるものは、他にもあります。
現在の引きこもり支援は、男性利用者の割合が高いことです。
引きこもる女性には、男性への苦手意識や恐怖心がある人が多くいます。
そういう人は、男性が多い空間に入ることや、対応してくれるスタッフが男性であることが負担となり、支援の利用しない、または途中でやめてしまいます。
利用者やスタッフが女性のみという場所でなければ、参加できない人がいるのです。
なら女性のみの場を作ればいいのかと言うと、それだけでは不足しています。
女性グループで過去にいじめなど嫌な経験をしたため、参加者に他の女性がいない、または人数が少なくグループ化しない場の方が利用しやすいという人もいます。
このバラバラさが、女性支援の難しい所です。
実際に支援をしていても、男性とは違うカーブを描いて回復していくように思います。
男性は一歩一歩階段を登るように変化していく人が多いのに対し、女性はなかなか変化が見えず、変化する時は急激に変わるという印象があります。
また女性の方がより共感を求める、共感によって前向きになりやすい傾向も感じられます。
これまで引きこもり支援は、あまり男女差なく行われてきました。
ですが女性への支援というものを、別に考える必要がありそうです。
公的な調査では、引きこもりのうち2~3割程度が女性とされています。
ですがそこには、家事手伝いや専業主婦は含まれていません。
さらに「家事手伝いだから」「専業主婦だから」と考え、相談にすら行っていない当事者や親が多数いると思われます。
そしていざ支援をと思っても、女性ならではの支援はほぼないため、行き場がない現状があります。
女性の支援は、まだスタート地点にも立っていません。
今回お伝えした内容も、支援する上で体感したものや想像ばかりです。
提示できる公的な根拠がないのです。
引きこもりのうち本当の女性の割合はどの程度か。
それすら分かっていないのが実情です。
まずは家事手伝いや専業主婦などを省かずに、「家族以外との交流がほぼない状態が6ヶ月続いている」だけの条件などで、調査を行うこと。
女性引きこもりの実態を把握することが望まれます。
そして女性の引きこもりに向けた支援を考え、実施していく社会になることを願っています。
ニュースタート事務局公式YouTubeチャンネルの、女性引きこもり解説動画です。
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同じ引きこもり・ニート状態であっても、その状況はそのご家族によってみな違います。
ニュースタート事務局では、ニート・引きこもりの解決のために、あなたの息子さん・娘さんに最もよいと思われる方法を、豊富な経験からご提案いたします。
認定NPO法人ニュースタート事務局スタッフ。青山学院大学理工学部卒。担当はホームページや講演会などの広報業務。ブログやメルマガといった外部に発信する文章を書いている。また個別相談などの支援前の相談業務も担当し、年に100件の親御さんの来所相談を受ける。
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