母親として、引きこもり生活がつづく子どもを目にするのはつらいもの。自分の子育てに原因があるのではないか、母親として責任を果たさなければいけないのではないかなど、つい自分自身を責めてしまうことも少なくはないでしょう。
子どもにとって、母親は影響力のある存在です。だからこそ、引きこもり支援では、母親の関わり方が重要になってきます。
ただ、母親だけが役割を担い過ぎると心身の負担が重くなり、結果として親子共倒れになるリスクも避けられません。大切なのは、子どもの引きこもりのためにご自身の考え方を見直すこと、そして、利用できる支援サポートは徹底的に活用することです。
そこでこのコラムでは、引きこもりの子どもに対して母親ができることを紹介します。あわせて、父親の役割や支援機関などのサービス内容も解説するので、最後までご一読ください。
まずは、引きこもりの子どもと母親の関係性に注目してみましょう。
母親・父親が引きこもりの直接的な原因になるケースは少ないですが、次のような特徴が見られる場合には、子どもの引きこもりが長期化するリスクがある点に注意が必要です。
それでは、それぞれ具体的に見ていきましょう。
心配性の母親が、子どもの引きこもり状態を助長して自立を妨げてしまうケースが見られます。普段は仕事で家にいることが少ない父親とは異なり、母親は子どもと同じ空間にいることが多いでしょう。
すると、引きこもり状態の子どもの現状に向き合わざるを得ない時間が増えてしまい、目の前の細かいことばかりに気を配るようになってしまいます。
子どもがいつもより口数が少ないだけで「また何かあったのかもしれない」「親に対して不満をもっているのかもしれない」など、心配性が原因で根拠のない不安に苛まれることもあるはずです。
そして、親が思っている以上に、子どもは親の影響を受けるもの。たとえば、母親が具体的な言葉を投げかけなくても、心配そうな表情をしているだけで、引きこもりになっていること自体に罪悪感を覚えてしまいます。
これでは、子どもが母親と顔を合わせることを避けて、より一層引きこもり状態が深刻になるだけです。
母親が子どもの奴隷状態になってしまうことで、引きこもりから抜け出しにくくさせてしまうこともあります。
一番わかりやすいのは、暴力があるケースでしょう。母親が暴力をふるわれることを恐れ、子どもの希望をすべて聞いてしまう状態です。
それ以外でも、子どもの言うことを母親が優しく聞いて引きこもりの改善を目指すうちに、ただ子どもの希望を聞いているだけの関係になっている場合もあります。
どちらにも共通しているのは、母親は子どもの希望への拒否を全くできなくなっていることです。こうなると状態が硬直化し、引きこもり脱出には全く向かえません。
まだ奴隷になっていないなら、奴隷にならないように意識しておきましょう。そしてもし奴隷になってしまっていると思ったら、父親や第三者を必ず入れるなどして、自分だけが子どもの対応をするのを避けるようにしてください。
母親と子どもが「共依存」関係になっていると、子どもの引きこもりが深刻化するリスクがあります。
まず、母親がお腹を痛めて産んだ子どもとの間に強い絆を感じて、こころに傷を負った子どもに共感するのは当然です。この気持ち自体は親心として尊重するべきものでしょう。
ですがそこから「母親である自分が守ってあげなければ」という気持ちが強くなり、その気持ちが「外の世界に出たくない、守ってほしい」という子どもの気持ちと結びつくと、「共依存」という状態になってしまいます。
「守ってあげたい」「守ってほしい」という思いで互いに動くきっかけを失い、引きこもり状態が続いていきます。子どもに必要とされることが嬉しく、子どもが外に出ようとすると寂しいと感じて母親がやんわり止めてしまうケースもあります。
これでは、子どもの社会復帰が遠のくだけです。
母親は、自分が共依存になっていないか、一度考えてみましょう。また共依存は自分では気づきにくいので、父親や第三者にチェックしてもらうことも有効です。
共依存にならないようにするには、子どもの世話を自分の生活のすべてにしないことです。引きこもりの子どもと向き合うときには、母親自身も楽しく日々を過ごせるように意識するのがポイント。
子どもに対して誠実に向き合うのは大切ですが、子どもがすべてにならないように注意をしましょう。
参照:e-ヘルスネット|共依存
「自分の子育てが原因で子どもが引きこもってしまったのではないか」と考える母親は少なくありません。
確かに、幼少期からの接し方が子どもの性格を形成する部分があるので、「引きこもりやすい」状態に対しては、過去の子育て方法が寄与しているとも考えられます。
ただ、現在進行中で引きこもり状態の子どもについて大切に考えなければいけないことは、「これからどうするか」「将来のためにどのようなステップで社会復帰を目指すのか」という未来への視点のはずです。過去に囚われていても前に進むための解決には役立ちません。
過去の子育てを反省するなら「現状を変えるため」に、子どもの今にとって何が必要かを最優先に考えましょう。
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母親と子どもがまるで友達同士のような仲のいい関係性でも、引きこもり問題が生じる可能性があります。仲良しの母親と娘に多いパターンです。
「親子間の仲が良いのに、どうして引きこもりから抜け出せないの?」と疑問を抱く親御さんも少なくはないでしょう。そこには「仲の良さ」を優先してしまう親子関係が大きく関わっています。
子どもが引きこもりになったとき、友達のような横並びの関係だけでは、解決できないことがどうしてもあります。親として話をしなければならない瞬間があるものです。
たとえば、ショッピングを一緒に楽しんだり、子どもと母親が共通の趣味をもったりしていると、親子間で円滑なコミュニケーションがとれているようにも思えるでしょう。
ですが友達のような関係を続けていると、いざというときに「親の顔」ができなくなっている母親がいます。時には本人にとって耳の痛い話をしなければいけないのですが、子どもに嫌われたくないなどの理由から、そういった話ができないのです。
またそれまで和気あいあいと楽しくやってきたからこそ、急にいやな話をされた時の子どもの反発も強くなります。ですが反抗期のように、成長途中で親子間の仲が一時的に悪くなるのはよくあることです。
もともと親子の会話がなくなっていると「どうせ言っても言わなくても関係は変わらない」と、言うべきことが言えます。ですが親子の会話が円滑にできているケースでは、その会話を失いたくない気持ちがどうしても出て来てしまいます。
仲が良かったからこそ、そこから動けない、または動くとおかしな動きになる。これが友達親子の特徴です。
ですから、「友達のような親子だから引きこもり問題とは無縁だ」「今まで仲が良かったから親自身には何の問題もない」と安易に考えないでください。今一度親としての自分自身を見つめなおし、一番大切なのは引きこもりを抜け出すことではないのかという気持ちで行動するようにしてください。
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母親が引きこもりの子どもに対して向き合うときは、次のポイントを意識することをおすすめします。
大切なのは、「母親である自分ひとりで責任をもたなければいけない」と思いつめないことです。
臨機応変に柔軟な対応をすれば、子どもの引きこもり問題解決を目指しやすくなるでしょう。
「自分が犠牲になってでも子どもを守らなければいけない」などのように、母親自身が自分に負荷をかけてしまうのは子どもにとっても逆効果です。
子どもの気持ちを考えすぎると、感情的になって母親自身も精神的・肉体的なストレスを感じてしまいます。これでは、子どもが引きこもりから抜け出すために背中を押してくれる存在がいなくなってしまうでしょう。
ポイントは、母親自身も自分の心身を大切にすることです。それが子ども自身が自分の心身を大切にすることにつながります。
自分が抱えきれない重荷を背負ってしまう前に、母親自身の世界を大切にしたり、第三者に相談をしたりすれば、こころに余裕が生まれるはず。ゆとりのある状況の方が子どもにも丁寧に接することができ、引きこもり支援には役立つでしょう。
引きこもりの子どもと向き合うときには、子どもの価値観・考え方を受け入れるように意識をしてください。
もちろん、社会人経験・他者とのコミュニケーション経験が少ない引きこもりの子どものなかには、「自分ではしっかり考えているつもり」だとしても、客観的にみれば未熟な思考しかできていないこともあるでしょう。
しかし、それを頭ごなしに「間違えている。お母さんの言う通りにしなさい」と否定してしまうと、子どもは母親に悩みや考えを伝えられなくなってしまいます。
ですから、子どもが未熟で間違いを犯していたとしても、訳もなく否定をするのではなく、「なぜ子どもがそのように考えているのか」「子どもの考えの前提にはどのような考え方・価値観があるのか」を探るようにしてください。
そして、状況が許すのであれば、仮に子どもと母親の価値観に大きな隔たりがあったとしても、子どもの価値観との違いを受け入れる努力をしましょう。
そのうえで、どのような対応方法をするかについての具体的な内容については、第三者に相談をしてご判断ください。
子どもの引きこもり支援に取り組む場合には、母親だけではなく、母親・父親が一緒に役割分担をしながら子どもに向き合うことが必要です。
たとえば、仕事ばかりをしていて家庭内のことには無関心な父親も多いはず。母親にとっては歯痒く、なかには父親としてのパートナーを軽蔑している方もいらっしゃるかもしれません。
ですが母親がそのような姿勢のままでいると、父親が今以上に家庭に関心をもたなくなったり、子どもに対して「事なかれ主義」で接したりして、結果的に、子どもの引きこもり状態が回復しないリスクが生じます。
何より、母親一人の存在だけでは、対応し切れないことが色々とあります。
一家の大黒柱である父親だからこそ言える言葉があるはずなのですが、父親が大黒柱を担っていると子どもが感じていないと、せっかくの言葉が伝わらなくなくなってしまいます。これは母親にとっても大きな武器を失うのと同じです。
少なくとも「家庭における父親の存在を明確化すること」「子どもにとっての父親という存在をはっきりさせること」です。これによって、父親・母親という二人が引きこもり問題に対してそれぞれの役割を果たせるようになるので、子どもに対して効果的に働きかけられるでしょう。
そのためには、母親が父親を蔑ろにするのではなく、父親という存在を受け入れ、父親を尊敬することも必要です。夫婦間の関係性にもかかわる大きなテーマとなりますが、子どもの将来にかかわることなので、父親・母親の間でも丁寧に話し合いを進めてください。
子どもの引きこもりに対して本格的に働きかける場合には、支援機関などの第三者に相談するのがおすすめです。
なぜなら、どうしても感情が入り混じってしまう母親・父親だけでは客観的な判断が簡単ではないですし、引きこもり支援の実績がある支援機関のアドバイスを参考にすることによって、より効果的な進捗を期待できるからです。
たとえば、ニュースタートでは、引きこもりの子どもの状況に応じて個別にアプローチ方法を提案します。
引きこもりなら「家から出る」、ニートなら「働く」、他者とのコミュニケーションが苦手なら「会話の練習」、病気や障がいの可能性があるなら「病院に行く」というように、社会復帰に必要なステップは子どもによって異なるもの。性格や年齢なども考慮して、細やかなケアを提供致します。
引きこもり問題は長期化する前に対策に踏み出した方が効果を得やすいものです。引きこもりの悩みを家庭外に出すのは決して恥ずかしいことではないので、どうぞお気軽にお問い合わせください。
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最後に、子どもの引きこもりと母親に関係する疑問をQ&A形式で紹介します。
いつまでも働かずにニート生活の子どもがいると、ご家庭の経済面にも支障が生じることがあるでしょう。「家族のため、子ども本人のためにも、自立して働いて欲しい」と考えるのは当然です。
ただ、「何もしないなら働きなさい」「働かないなら出て行きなさい」というように、いきなり二者択一で結論を迫るのはおすすめできません。
なぜなら、子ども本人には何かしら理由があるわけですし、その根本的な理由を解決しなければ自主的に前に踏み出せないからです。
ニュースタートでは、引きこもり支援だけではなく、ニート支援にも力を入れています。集団生活を通して社会経験を重ねながら就労に繋げるなどのケアを提供できるので、どうぞお気軽にお問い合わせください。
引きこもりの子どもに向き合う母親のなかには、対応方法を見誤って母親までも引きこもり状態になってしまうことが少なくありません。
「子どもを家にひとりきりにすると心配、かわいそうだ」「自分だけ外出するのは気がひける」など、子どもの心情に寄り添い過ぎると、母親も外出機会を奪われて、中年女性の引きこもり問題を併発してしまいます。
大切なのは、母親自身も自分の世界をしっかりと確立して、気持ちに余裕がある状態を作り出すことです。
子どもと母親が共倒れになってしまうとますます子どもが引きこもりから抜け出せなくなるので、ご自身の心身の健康にも気を配りましょう。
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「引きこもりの子どもを支援機関に任せるのが不安」「支援機関でどのような取り組みをしているのか知りたい」という親御さんもいらっしゃるでしょう。
引きこもり対策の訪問支援では、専門的な知見を備えた相談員がお子さんと関わる機会をもつことで社会復帰のきっかけを作るケアを実施します。
特に、ニュースタートの訪問支援では、「近所に住むお兄さん・お姉さん」のような立場で子どもに働きかけるので、行政の相談員のような堅苦しい雰囲気はありません。ゆっくりと時間をかけながら手紙を交換したり直接話をする機会を作ったりしながら、信頼関係の構築を目指します。
たとえば、母親と子どもとの間で会話をするのさえ難しい・子どもが暴力をふるうなどの状況なら、第三者機関のテコ入れが役立つでしょう。家庭外の第三者だからこそ家庭に新しい刺激を与えられるので、社会復帰の糸口を探れます。
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引きこもり生活がつづくと、昼夜逆転状態になってしまうことがあります。
「後ろめたいので家族と顔を合わせたくない」「日中何もしていないことを誰にも知られたくない」という気持ちから、夜中に生活する習慣がついてしまうからです。
ただ、昼夜逆転などの生活リズムの乱れは、引きこもり生活によってもたらされる結果でしかありません。
つまり、昼夜逆転を治したからといって引きこもりが解決できるわけではなく、引きこもり問題を解決すれば自然と昼夜逆転も改善されるということです。
ですから、「昼夜逆転を治すこと」をメインテーマとして重く捉えるのではなく、根本問題である「引きこもりからの脱却」を中心に物事を考える視点を大切にしてください。
引きこもりの子どもにとって、一番影響力を与えるのは「母親」という存在です。
母親の言動は、良い意味でも悪い意味でも、子どもに直接的に作用するとお考えください。
だからこそ、引きこもり支援では母親が適切な考え方・姿勢をもつことが極めて重要だと考えられます。
「ひとりで責任を果たそう」などと思いつめてしまうと母親が潰れてしまうので、信頼できる支援機関のアドバイスを参考に、効果的な引きこもり支援に踏み出しましょう。
同じ引きこもり・ニート状態であっても、その状況はそのご家族によってみな違います。
ニュースタート事務局では、ニート・引きこもりの解決のために、あなたの息子さん・娘さんに最もよいと思われる方法を、豊富な経験からご提案いたします。
認定NPO法人ニュースタート事務局スタッフ。青山学院大学理工学部卒。担当はホームページや講演会などの広報業務。ブログやメルマガといった外部に発信する文章を書いている。また個別相談などの支援前の相談業務も担当し、年に100件の親御さんの来所相談を受ける。
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