引きこもり。
学校や仕事に行かず、家庭にとどまる(他者と交わらない外出は可)状況が、6ヶ月以上続いていることを表す言葉です。
では引きこもりの原因は、いったい何なのでしょうか。
不登校から引きこもりになったのか?
仕事で色々あったのか?
病気なのか?
親が関係しているのか?
このコラムでは、内閣府が発表した統計と支援現場の体感から、引きこもりの原因をお伝えしていきます。
目次
以前は、引きこもりと不登校を関連付けて考える傾向がありました。
学校時代に不登校になり、そのまま引きこもって成人になっているというイメージです。
ところが最近は、不登校よりも、一度仕事について退職し引きこもりになったという人が、多数派です。
私たちが受けている相談もそうですし、統計もそれを裏付ける内容です。
内閣府が調査した結果を見ていきます。
まずは平成22年に発表された、15~39歳を対象の調査結果です。
引きこもりとされた59人の回答です。(複数回答可)
まず目につくのは、30%を超えるきっかけが一つもないことです。
引きこもりの原因は多様で、パターン化できない、対策が一本化できない理由がここにあります。
そして特筆すべきは、「その他」が一番多いことです。
次いで「職場になじめず」「病気」が続きます。
「職場になじめず」「就活失敗」を合わせた、仕事に関連するものは44.0%です。
「小中高の不登校」「大学になじめず」「受験失敗」といった、学校に関連するものは20.4%です。
その間に23.7%の「病気」が入るといった感じです。
(「人間関係」は、学校の人間関係か、職場の人間関係か、または家族関係かといった判断がつかないため、今回は割愛します)
次は、同じく内閣府が、先程の6年後に発表した調査結果です。
この時の引きこもりとされたのは、49人です。
「その他」の多さは、前回以上です。
この中身によっては、1位は簡単に入れ替わってしまいます。
これでは、本当に一番多い原因が何なのか、確証を持って話すことができません。
「職場になじめず」「就活失敗」といった、仕事に関連するものは34.7%です。
「小中高の不登校」「大学になじめず」「受験失敗」といった、学校に関連するものは28.4%です。
やはりここでも、仕事関連が一番多い原因となりました。
最後は、40~64歳という中高年の引きこもりを対象とした調査です。
引きこもり人数は47人です。
この回は、選択肢がだいぶ細かくなっています。
そして過去2回にはなかった「退職」が初めて登場し、これが1位の原因となりました。
この「退職」に「職場になじめず」「就活失敗」を合わせると、仕事に関連するものは61.7%と過半数です。
「小中高大の不登校」「受験失敗」といった、学校に関連するものはわずか10.6%。
「特にない」「分からない」を合わせた14.9%よりも少ないという結果になりました。
以上の3つの数字を合わせて、155人の統計を出してみます。
(項目の一部はこちらの判断で統合します)
結果は、「職場になじめず」「就活失敗」「退職」という、仕事に関連するものは46.4%でした。
「小中高大の不登校」「受験失敗」といった、学校に関連するものは20.0%で、病気も同じく20.0%です。
半数弱が仕事関連による引きこもり、不登校と病気が2割ずつ、残りにそれ以外の様々なものが詰まっているというのが、統計から見えた引きこもりの原因です。
これは、実際の私たちの体感とも、ズレはありません。
ただ最初の2回の調査では、3回目で1位となった「退職」という選択肢がありませんでした。
一番多い「その他」の中に、「退職がきっかけ」という人がかなりいる可能性があります。
それ次第では、仕事関連の割合が更に上がるかも知れません。
そもそも引きこもりとは、どんな状態をを指すのか。
改めて、引きこもりの定義を説明しておきます。
様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学、非常勤職を含む就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には6 ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を指す現象概念である。
引用:特集2 長期化するひきこもりの実態|令和元年版子供・若者白書(全体版)
これが、内閣府の引きこもりの定義です。
今回使用している統計も、この定義を元に調査されたものです。
続いて、厚生労働省です。
こういった現在引きこもりの人たちが利用する公的支援は、全て厚生労働省によるものです。
ですから厚生労働省の引きこもりの定義も、とても重要です。
「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態」を「ひきこもり」と呼んでいます。
引用:厚生労働省|政策レポート|「ひきこもり施策について」
これが、厚生労働省の引きこもりの定義です。
引きこもり支援センターは、こういった人たちをサポートするために設置されました。
また、現在では最新である平成22年に公表された「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」では、内閣府の定義がそのまま使われています。
(参照:厚生労働省|「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」の公表について)
このように、内閣府と厚生労働省では、細かい言葉は違います。
ですが大まかな内容は、共通しています。
仕事や学校だけでなく、「他者との交流」もないこと。
その期間は6ヶ月以上であること。
この状態を指すのが、「引きこもり」という言葉です。
引きこもりの定義ですが、内閣府の場合、先程の言葉に続きがあります。
なお、ひきこもりは原則として統合失調症の陽性あるいは陰性症状に基づくひきこもり状態とは一線を画した非精神病性の現象とするが、実際には確定診断がなされる前の統合失調症が含まれている可能性は低くないことに留意すべきである。
引用:特集2 長期化するひきこもりの実態|令和元年版子供・若者白書(全体版)
厚生労働省によるガイドラインにも、この文章はそのまま反映されています。
引きこもりは病気ではないが、未診断の統合失調症の可能性はあるということです。
引きこもりの人が病院に行って告げられる病名は、統合失調症だけではありません。
うつ、双極性障害、強迫性障害、適応障害、パニック障害、対人恐怖症、不安症など、様々です。
私は病気について専門的に勉強した経験がないため、なぜ統合失調症だけが記載されたのかは分かりません。
統合失調症の初期症状に、引きこもりやすいからかも知れません。
また「可能性は低くない」という表現についてです。
これが実際は1割程度なのか、3割4割なのか、数字も推し量ることができません。
ただ実際に相談を受ける中で、統合失調症の診断を受けている人や、そうではないかと思われる人は、年に数人しかいません。
割合にすると、数%程度ではないでしょうか。
わざわざ統合失調症を記載するほど数はいないのでは、という感じはします。
先程のグラフを、もう一度見てみます。
「病気がきっかけ」と回答した人は、2割です。
「病気」には、統合失調症だけでなく、うつや適応障害など、様々なものが入るはずです。
発達障害が原因という場合も、ここに含まれるでしょう。
そして「病気の自覚がない」「病院に行っていない」という方も、一定数居るはずです。
ただそういった方を合わせても、せいぜい3割程度ではないかと思います。
「人間関係」がきっかけという16.1%の人については、ここまで言及していません。
学校の友人や先生、職場の同僚や上司など、どこの人間関係か確証がないからです。
そしてその中には、「親・家族との人間関係」もあることでしょう。
また内閣府の調査には、「家族関係」といった選択肢がありません。
「その他」の中には、そういった人が含まれている可能性が十分あります。
親が引きこもりのきっかけになるのか、なるならそれはどの程度の割合なのか。
これをはっきり示した公的調査は、今のところありません。
ですがやはり親は全くの無関係とは言えないのは確かです。
たとえば、家庭内の不和や離別があると、本人は将来の不安や自分の気持ちを素直に伝えられません。
誰にも相談できないまま、孤立して引きこもりを選んでしまう可能性が高くなるわけです。
親に相談できないとなると、普通であれば友人などが相談相手になるものです。
ですが引きこもりになりやすい人は人間関係が苦手な場合が多く、相談できる友人がいないか、いても1人2人です。
親に相談できないなら、「誰にも相談しない」という選択になりがちです。
その結果、自分ではどうしようもできずに、引きこもりになっていくのです。
そうやって引きこもり、社会から切り離された本人。
ですが親は相談相手ではないため、一緒に暮らしていたとしても、親とも実質切り離されています。
すると誰ともきちんとした接点がないまま、ただ引きこもりが続くことになります。
こうやって「長期化の構造」が出来上がります。
親子で同居している場合は、この構造に親御さんは必ず関与しているのです。
引きこもりと親の関係についてより詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
内閣府の調査では、男女ほぼ同数の人を対象にしています。
そしてその中で引きこもりに該当する、毎回約50人に対して、より細かい質問をしています。
ですがこの約50人の中で、女性の数は多くありません。
女性が占める割合は、このようになっています。
これでは、女性の引きこもりの原因に迫るのは難しいでしょう。
それでも統計を見ていくと、引きこもりのきっかけが男女で大きくは違わないという印象です。
そしてこの調査には、根本的な課題があります。
家事手伝いや専業主婦は、引きこもりから外されてしまうのです。
両親や夫以外との交流が全くなく、実質引きこもりと呼んで差し支えない人が多数いるはずです。
ですがこの調査では、こういった人たちの言葉は入っていないのです。
家事手伝いや専業主婦を省かず、もっと人数の多い調査をする必要があります。
本当の女性の引きこもりがどの程度いるのか、原因がどこにあるか、私も知りたいと願っています。
女性の引きこもりについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
近年話題になることが多い、「8050問題」。
80代の親御さんが、50代の引きこもる我が子と生活している状況です。
実際にこういった人たちの中には、事件になってしまうケースがあります。
内閣府の調査では、この年代の半数近くが引きこもり7年以上でした。
若い時から引きこもり、そのまま長期化して中高年になった人が、約半数を占めたのです。
まだ我が子が20代30代という親御さんも、「うちの子の末路なのではないか?」という心配が湧いてくることでしょう。
中高年引きこもりの原因は、比較的はっきりしています。
学生時代の不登校から引きこもり続けている人もいるいにはいますが、一度は社会人になり、退職してからという人が過半数を占めます。
8050問題など中高年引きこもりの最大の問題は、親が生活を支えられなくなることです。
年金生活となり、余裕がなくなった。
加齢で体が動かなくなり、身の回りのことができなくなった。
介護が必要となった。
そういう状況になった時に、我が子の引きこもりの問題が表面化します。
親が抱えきれなくなるのです。
最大の問題は、親御さんが亡くなった後に、本人が生活していけるのかということです。
経済面も、生活面も、様々なことが一気に本人に降りかかってくるのです。
そうなる前に、親御さんはきちんと相談をして支援を検討して欲しいと思います。
中高年引きこもりについてより詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。
引きこもりの原因は、確かに仕事に関わるものが4割ほどを占めました。
ですがやはり不登校からという人も2割ほどいます。
病気が原因という人が2割、そしてそれ以外にも実は病気がある人もいます。
そして「きっかけは特にない、分からない」という人もいます。
何より「その他」が多くを占め、上記以外の原因がまだまだありそうです。
原因が多様だということは、必要な支援も多様だということです。
我が子の引きこもりの原因が分からないという場合は、親御さんが安易な自己判断するのではなく、ぜひ相談していただければと思います。
当サイトでは、引きこもっていた寮生や卒業生の声をたくさん紹介しています。
ぜひ参考にしてください。
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同じ引きこもり・ニート状態であっても、その状況はそのご家族によってみな違います。
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認定NPO法人ニュースタート事務局スタッフ。青山学院大学理工学部卒。担当はホームページや講演会などの広報業務。ブログやメルマガといった外部に発信する文章を書いている。また個別相談などの支援前の相談業務も担当し、年に100件の親御さんの来所相談を受ける。
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