お子様を抱える親として、大学生という人生のターニングポイントで不安を感じることは多いはずです。そして、厳しい現実なのが「大学生の引きこもりが見分けづらいこと。
それは、大学とそれまでの教育機関にある差異に起因します。高校までの生活とは違って時間割の自由度が上がり、授業をいつ・どの程度取るかは、学生自身の判断によるので決まった時間割はありません。
必要があって家で過ごすお子様がいるなか、引きこもりかどうか判断しづらいのが大学生の引きこもりです。
そこで、このコラムでは、大学生の引きこもりの実態について解説し、どういった対処を取れば良いかを紹介します。
少しでも不安を抱えている親御さんは、ぜひ参考にしてください。
目次
そもそも、大学生が引きこもりになることはあるのでしょうか。答えは、「大学生の引きこもりは昔から一定数存在する」です。
授業が少なくなっただけ、あるいはオンライン授業が増えただけで、「引きこもりではないのでは?」とお考えの親御さんもいるはずです。
もちろん、オンラインだから参加しやすくなった人も一定数いるでしょう。しかし、受講しやすく・サボりやすいという両方の側面を持った方法だからこそ、引きこもりを助長するケースはあります。
例えば、ニュースタートが活動を開始した1994年から、大学の不登校に関する相談がありました。また、平成20年に行われた、全国の大学生約280万人を対象とした調査を見れば明らかです。
調査の結果から、引きこもりやそれに近い状態である、不登校や無気力状態(アパシー)である生徒の数や割合を以下にまとめます。
状態 | 人数 | 割合 |
---|---|---|
不登校 | 2.0〜8.1万人 | 0.1〜1% |
アパシー(無気力状態) | 0.3〜2.8万人 | 0.6〜2.8万人 |
ひきこもり | 0.6〜2.8万人 | 1.0〜4.9% |
平成20年の時点で引きこもりやそれに準ずる大学生の割合は、全体の総数だと1.0〜4.9%(約2.9〜14.7万人)となっていました。
このことから、引きこもりの大学生は、意外に身近な存在であるといえます。またこの調査は、平成20年度の調査であるため、オンライン授業が増えた現在この割合は増えていると予想できます。
引きこもりという状態の特性から、相談に訪れることも少なく、教育機関ではその実態を把握しきれていないことがあります。先ほど紹介した調査では、引きこもりまたはそれに準ずる状態の学生からの相談率は0.09%(0.3万人)でした。
相談数が少ないという事実から、調査結果ではわからない、隠れた引きこもりは数多く存在すると予想できます。
大学では出席が小〜高校と比べて管理が緩く、多少サボっても大きな問題として取り上げられないケースが多いです。また、周囲や本人さえも「サボっているだけ」と簡単に考えて済ませてしまうことが多いでしょう。
そのため、隠れた引きこもりはさらに判別しづらいです。
しかし、この状態のまま放置してしまうと、そのまま本格的に引きこもりになってしまうことがあります。少しだけのつもりが、どんどん無気力になり、結果、引きこもってしまうからです。
少し休憩するつもりでサボっただけでも、気が付くとその状態から抜け出せなくなり、引きこもり状態が長期化します。
オンライン授業は、感染予防の観点や一部の学生にとっては、大変役立つものとなっています。一方で、外出機会の低下を招き、学生の引きこもりを促進してしまうという側面は少なからずあります。
たとえば、2020年に総務省が示したデータによると、オンラインで授業を受けている大学生の割合は、5月に行われた調査では約95.4%(2020年5月)、その後の12月に行われた調査でも約87.7%(2020年12月)になりました。
家が大学から遠いといった理由で授業に集中できていなかった学生の中には、オンライン授業のほうがよいという人もいるでしょう。
もちろん、オンライン授業は有意義なシステムですが、さらに隠れた引きこもりの数も増えているはずです。
オンラインで授業が受けられるということは、家から出る機会の減少につながります。録画された授業を見る場合もあり、決められた時間にパソコンに向き合う必要がないといった授業も多いです。
こうした授業形式の変化が、隠れた大学生の引きこもりを助長する側面を持つとも考えておきましょう。
ひきこもり | 準ひきこもり |
---|---|
20 代までに問題化する。 | 大学入学以前に問題化している 社会的に問題が顕在化するのは就職活動期もしく は大学卒業後である |
6ヵ月以上自宅に引きこもって社会参加をしない | 大学には登校するものの、ほとんど社会参加をし ない。他者との交流が極めて少ない |
他の精神障害がその第一の原因とは考えにくい | 他の精神障害がその第一の原因とは考えにくい。 |
周囲の人は問題に気づいている | 周囲の人は問題に気づいている場合と、気づいて いない場合がある |
本人は問題に気づいている | 自分が準ひきこもりであることに気づき、悩んで いる場合もあるし、気づいていない場合もある |
大学生特有の「引きこもりに準ずる状態」として、「準引きこもり」という状態があります。
準引きこもりは、学業成績や登校等に問題はなくとも、家族以外の他者とのかかわりがほとんどない状態を指します。つまり、社会経験の不足が就職活動や大学卒業を機に問題となり、社会に適応できず引きこもってしまうような状態です。
準引きこもり状態の学生も含めると、引きこもりやそれに準ずる状態の大学生の数はさらに増加します。登校していても、授業だけ受けて帰宅するといった学生の数も高校までと比べると増えてしまうでしょう。
大学では決まったクラス等がほとんどないため、サークル等に入らなければ、家族以外の他者とのかかわりを作りにくい性質があるものです。そのため、「準引きこもり」という言葉が存在するように、その言葉の定義に当てはまる大学生は一定数いると考えられます。
準引きこもりの数も含めると、大学生の引きこもりという問題は、より身近な問題です。
ここまでの大学生の引きこもりという問題の解説を受けて、ご自身のお子様が引きこもりやそれに準ずる状態ではないか、という不安が高まってきた親御さんもおられるはずです。
そこで以下では、大学生が引きこもりになる原因について紹介していきます。
ぜひチェックして、お子様がどのような悩みを抱えているのか把握しましょう。
1つ目の原因は、一人暮らしなどの環境の変化です。大学生になると、環境が変化して、自分でしなければいけないことが増えてきます。
また、一人暮らしなどを始めると「やることは増えたのに話し相手はいない」といった状況に陥ってしまいます。
家事や生活費の管理、慣れない場所での生活など、さまざまなことに時間や意識を持っていかれることも。結果として、一人暮らしなどの環境の変化は、大学生が引きこもりになる原因の1つとなります。
大学生活には、クラスがあったり、担任の先生がいたりするわけではありません。そして、中高までとは異なり大学生は細かくサポートされないのも実情です。結果として、授業への出席や履修の登録は自己責任となります。
自由度は上がりますが、その反面、自己管理をしっかりしないと「大学での勉強についていけなくなる可能性」をはらんでいます。
また、人に相談できずに進められなかったり、抜け落ちがあることに気づかなかったりという人も出てしまうでしょう。そうすると、自己管理がうまくできない結果として、留年してしまい「一気に引きこもってしまう」ケースもあります。
自由度が高まると同時に、自ら動かなければ友人がまったくできない状態が出来上がります。そうすると、いつの間にか引きこもりやすくなり、準引きこもりに陥ることも。
サポート面でも触れましたが、自由度の高さがあることで『どうしたらよいのかわからない』人が増えてしまいます。
2つ目の原因は、大学の友人やバイト先での人間関係です。大学生になると、それまでの中高の生活と違い、周囲にさまざまな人間が増えます。
しかし、大学はクラスがないため、自分から行動を起こさなければ人間関係が構築できません。あるいは、周囲に人間が増えた結果、うまくいかない人と出会うことも増えます。
いろいろな人と交友を深めるチャンスではありますが、その自由度の高さゆえに、自分から行動を起こさないと人間関係が形成しづらくなることも。
バイト先では、それまでの友人とは違う「仕事先の同僚」といった、新しいカテゴリの知人ができて、接し方に悩むことも多いでしょう。
結果として、人間関係が構築できなかったり、嫌になったりして、引きこもりや準引きこもり状態に陥ってしまいます。こうした人間関係の悩みは、引きこもりのきっかけとしてはよくある事例です。
就職活動がうまくいかないといった、働くことへの「不安な気持ち」も原因となります。就職活動は人生における一大イベントですが、それに躓いてしまい、引きこもり状態に陥る大学生は一定数います。
「就職活動がうまくいかない」ということは内定が出ないということだけを意味するのではありません。
以上のようなことが、就職活動を機に目に見えて問題になり、引きこもってしまうことがあります。「自分の将来を明るいと思う」大学生の割合はそう多くなく、約半数の大学生は「将来を不安」に感じています。
親御さんの世代であれば気にならなかった、仕事内容・貯蓄などの将来に対する不安が噴出し、引きこもりになってしまうわけです。
大学生の悩みの1つとして、経済面での問題があります(大学生の将来設計に関する意識調査 2021)。
自分の息子・娘はお金のことは相談しないし大丈夫とお考えかもしれません。しかし、大学生になると、自立心が芽生えて「お金の問題を相談しにくいもの」です。また、それまでの学生生活と違い、時間に余裕がある大学生は、アルバイトで自分の生活費や交友費を稼げるようになってきます。
それでも、休暇もそれまでの学校生活と比べると長く、時間は潤沢にあり、いろいろなところに遊びに行けるようになり出費はかさみます。そのため、お金はいくらあっても足りないでしょう。
こうした背景のなか、金銭の問題を親に相談すると、親の期待を裏切ってしまうかもしれないと考える人も一定数います。たとえば、あなたがいま、お金に困っているとしてそのことをまず親に相談するというのは、どうあれ後ろめたさが伴わないでしょうか。
このように、大学生にとってお金の相談は親には相談しにくい悩みといえます。
ここまでは、引きこもりやそれに準ずる状態の大学生の現状と、大学生が引きこもりになってしまう原因を見てきました。
そこで、以下では引きこもりの大学生の子どもに対して、どのように向き合えば良いか考える親御さんもいるはずです。引きこもりの大学生の子どもに対して、親御さんが、大学側に対して取れる行動は3つあります。
しかし、そのどれもがうまくいく場合とそうではない場合があります。休学した場合を考えてみると、気持ちが切り替わって復学し、何事もなく卒業・就職する場合もあるかもしれません。
一方で、そのままずるずると引きこもってしまう場合もあります。その対処がうまくいくかいかないかは、お子様自身によるためわかりません。
そのため、いま見えている問題ではなく、その問題の元となっている原因への理解を深めていく必要があります。
ニュースタートでは、上記のようなご相談いただくことがあります。
しかし、大学の引きこもりは大学に入って急に生まれることではなく、それまでの人生の積み重ねの結果である場合が多いです。
「せっかく大学までは入れたのに引きこもるなんて」と考えるのではなく、大学で引きこもったことはお子様が成長しなおすチャンスだと考えましょう。
そうはいっても、「根本的な原因に向き合う」には、どうすれば良いのか分からないといった方が多いはずです。そのようなときは、アドバイスを聞くだけでも良いので、第三者に相談する選択肢も考えてみてください。
【参考動画】
まず、親御さんに考えていただきたいのが「第三者の意見を取り入れることは悪いことではない」ということです。第三者に頼るのは、みっともないことではありません。
お子様と親御さんの価値観に違いがあって、理解しきれないこともあるでしょう。また、大学生の引きこもりを考えると、「家族が閉じている」、つまり家族以外との交流が少ないケースが意外に多くあります。
こうした場合には、親御さんからだけの援助でお子様の手助けをするには、どうしても限界があります。
そこでニュースタートが親御さんにお伝えしているのは「子ども一人に対して、親が二人では足りない」ということ。お子様が前に進むきっかけとなるには、第三者からのアプローチも非常に重要なことです。
「第三者に相談する」ということは、「家族を開く」ことにつながります。どのような理由であれ、「第三者には頼れない」と考えて誰にも相談していなければ、お子様には「自分は悪いことをしている」という意識が残ってしまいます。
「誰に相談すればいいかわからない。」そのような場合には、ぜひお問い合わせください。
この記事では、大学生の引きこもりの現状・原因・そしてその対処法をお伝えしました。
親御さんにとっては聞きたくないお話しかもしれませんが、筆者は一度不登校になった大学に戻り、卒業まで過ごせたケースはめったに目にしたことがありません。
不登校になったのは、大学の環境・人間関係・自分のいずれかで『何かきっかけ』があったはずです。そうすると、マイナスからのスタートとなってしまって他の道より険しくなるでしょう。
そのため、相談では「いかに大学に戻すか」を最初から考えるのではなく、退学するか・休学するかを決めます。そこから、1年ほどまったく別のことに取り組む方法がおすすめです。
何を取り組むのかはその人次第。しかし、何か本人がやってみたいことがある場合そちらを優先してみましょう。
ただしやってみたいことが本人から出て来ない場合が多いです。
など、さまざまな方法で支援できます。何が適切な支援方法なのかも含めて、相談にきていただければアドバイスいたしますので、お気軽にお声がけください。
【当事者の声】
働けと言われてもどうやって?という感じで─33歳・6年ひきこもり・Nくん
家族と比較しなくなりました─27歳・1年半ひきこもり・Kくん
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同じ引きこもり・ニート状態であっても、その状況はそのご家族によってみな違います。
ニュースタート事務局では、ニート・引きこもりの解決のために、あなたの息子さん・娘さんに最もよいと思われる方法を、豊富な経験からご提案いたします。
認定NPO法人ニュースタート事務局スタッフ。青山学院大学理工学部卒。担当はホームページや講演会などの広報業務。ブログやメルマガといった外部に発信する文章を書いている。また個別相談などの支援前の相談業務も担当し、年に100件の親御さんの来所相談を受ける。
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