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ニート・引きこもりの子を苦しめる親ーー会社や学校への復活戦

2018年1月31日

 

「リターン・マッチ(敗者復活戦)」を急いでしまう親

 

子どもが学校や会社を辞めた場合、まずできる範囲で緊急対応したあと、親はどうしても新たな学校や会社に通う可能性を考えはじめてしまいます。

  

子どもが成績優秀であればあるほど、そうしてしまうのです。

 

 

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リターン・マッチ、いわば「敗者復活戦」を急いでしまう――

 

これもニートの子どもを持つ親の特徴です。

 

 

 

もう10人中9人がそうです。

 

真面目な親ほど、あくまで受験戦争の延長線上で、できるだけ早く「リターン・マッチ(敗者復活戦)」をさせようとしてしまう。

 

なぜなら、親自身がほかの選択肢を持たないからです。

 

 

 

だけど結果的には、そこで子どもは挫折を繰り返してしまい、さらに深い絶望を抱え込んでしまう。

 

そういうパターンが実に多いのです。

 

 

 

そこで両親が、もう少しゆったりとした道を考えてやればいいのに、一日でも早く「リターン・マッチ(敗者復活戦)」をさせないといけないと、生真面目に焦ってしまう。

 

余裕がないのです。

 

 

 

子どもも、現実的には「いい学校、いい会社」路線から外れているのに、頭だけは親と同じ考え方しか持っていないため、親子で空回りして悪循環に陥ってしまいます。

 

 

 


 

 

 

23歳の泰治君は、北海道の歯医者の息子です。

 

どうやら祖父も医者らしい。

 

 

 

泰治君が不登校から引きこもったのは中学時代です。

 

 

 

私が聞いた範囲では、お父さんがとてもモダンな人で、町でもすごく目立つ外観の歯科医院を開業したそうです。

 

しかし泰治君の仲間内では、それがからかいの対象になってしまった。

 

おまえの病院、変てこりんで目立ちすぎだろうと。

 

 

 

それが直接的なきっかけですが、ほかにも医学部進学へのプレッシャーなどもあったようです。

 

それで五年間、自宅に引きこもってしまいました。

 

 

 

大検に合格した泰治君を説得して、大学受験をめざして予備校に通わせたほうがいいのか、と親御さんで相談しているときに、偶然お母さんが私の講演会に参加されたのです。

 

 

 

講演終了後、お客さんが全部いなくなってから遠慮がちに、泰治君のお母さんが私のところにいらして、自己紹介をされました。

 

 

 

その講演で私は、まさに「リターン・マッチ(敗者復活戦)」を急がせる親の話をしたところでした。

 

すると、お母さんが、実はこれから息子を予備校に通わせて、大学進学をめざさせようと考えていたんですけど、先生の話をお聞きして少し気持ちがゆれています――

 

そう率直に話してくださいました。

 

 

 

私は単刀直入に、「焦ることはありません」とお母さんに伝えました。

 

 

 

「中学から不登校で、もう22歳だという考え方もありますが、一方で30歳で一人前になればいいと開き直れば、まだ八年もあるという考え方もできますよ」

 

 

 

おじいさんの代から医者の家系で、経済的にも余裕があるのなら、なおさら30歳をひとつのめどにして、ゆっくり育てたほうがよくありませんか、とも私からお話ししました。

 

それで、どうしても医学部だというのなら、どこかの大学にいったん入れて、最近は学士入学という形で、途中から医学部に編入する道もありますから、と。

 

 

 

私がそう言うと、お母さんもいたく納得されて、医者の世界はたしかに狭いですと、ご主人の父親のことも匂わせながら、深くうなずかれていました。

 

 

 

結局、泰治君はそれからニュースタートの寮に入り、いまはイタリアのローマにある寮で生活しています。

 

私が、具体的なプラスは何もなくてもイタリアで一年ほど遊んで来いと言ったら、本人もその気になったのです。

 

 

 

ローマでは、ニュースタートの寮生とイタリア人学生が互いに、日本語とイタリア語を教え合う教室を開いています。

 

彼もそこで一年ぐらいかけて、ゆっくりと本来の元気を取り戻せばいいのです。

 

 

 

 

 

働きがいより「お金」を重視する親や社会



 

ニートの子どもを持つ親御さんと話していて、私が強く感じることに、「働きがいよりお金を重視する傾向」が親御さんの中にあるということです。

 

 

 

もちろん、一人で生活していくのにも、結婚して家族を養っていくのにも、それ相応のお金は必要です。

 

しかし私が見るに、仕事に対する金銭的見返りを、それ以外の見返りより過大評価しすぎる傾向が、ニートを持つ親御さんにはあるように思えてならないのです。

 

 

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 本来、労働の報酬はお金だけではないはずです。

 

たとえば、働くこと自体の喜びとか、誰かから感謝される喜びといった働きがいもあります。

 

 

 

しかし、彼らの親たちには、労働の報酬は、そういう働きがいより、まずは充分に生活していけるお金だという考え方が根強くあるように思えてならないのです。

 

 

 

たしかにバブル崩壊前は、銀行に就職したら、ずいぶん羨ましがられたものです。

 

高収入で、将来も安定した仕事だと見られていたからです。

 

しかしバブル崩壊後は、銀行のさまざまな悪行が報道されて、銀行に就職しても、誰からも羨ましがられなくなりました。

 

世間の職業観なんて、その程度のものでしかありません。

 

 

 

ニュースタートを卒業後、彼らなりの働きがいを感じられる仕事を派遣社員として始めても、親は

 

「そんな月20万円程度の収入では、家族も持てないから、もっと安定した正社員の仕事を探しなさい」

 

というわけです。

 

 

 

働きがいという観点から仕事を選んだ子どものほうが、ただマイホームやマイカーといった物欲のために働いてきた自分よりも、人間として真っ当かもしれない――

 

そんな発想はそこにはまったくありません。

  

子どものほうが、ずっと真面目に仕事と社会の関係を考えているのではないか、という認識が親の側には欠落しているのです。

 

 

 

だいたい、高校や大学中退で正社員として就職することが、いまどれだけ難しいかという認識も欠如している親が多い。

 

ただ、自分が就職した頃のような感覚で、

 

 

 

「もっとまともな就職先を見つけろ」

 

 

 

「アルバイトではなく正社員の仕事を探せ」

 

 

 

と言うわけです。

 

 

 

すると子どもは、

 

「自分がやりたくもないのに、お金目当てだけで仕事を選びたくない」

 

と反論する。

 

当然、親子の対話は平行線のままです。

 

 

 

ニートを批判する大人たちも、似たようなものです。

 

 

 

自分たちの会社が新卒採用を抑制していることは知っているし、新卒の就職率が近年ずっと低いという情報もマスコミなどで見聞きしている。

 

にもかかわらず、自分が就職した頃の感覚のまま、「働かざるもの食うべからずだ」と、自分たちの子どもや、ニートの若者たちを批判してしまうのです。

 

 

 

 

「希望のニート」二神能基著 2005年6月2日刊行 より

 


 

 

このテキストは株式会社東洋経済新報社(以下「出版社」という)から刊行されている書籍「希望のニート」について、出版社から特別に許諾を得て公開しているものです。本書籍の全部または一部を出版社の許諾なく利用することは、法律により禁じられています。

 

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